第5回 事業継承を考えるべき3つのタイミング
「いつかはクリニックを誰かに継いでもらわないとならないけど、今は定期的に通院してくれる患者さんがたくさんいる。経営は安定しているし、自分も元気だし事業継承はまだまだ先。いつか考えれば良いだろう」。
日々の診療などで忙しくしている多くの先生がそう思っているかもしれませんが、事業継承については早め早めに行動しておくのが良さそうです。
承継がうまくいったケース、なんとか間に合ったけどもっと早く手を打てば良かったケースなど、実際の事例を交えながら事業継承を考えるべきタイミングについてご紹介します。
◇事業継承を考えるべきタイミングその1
家族や親族への継承が難しいと分かったとき
家族や親族に医師がいる場合には、まずはその家族などが事業を継承する後継者候補として挙がると思います。しかし、事業継承の話題を切り出すことでプレッシャーを与えることや、将来の職業選択の幅を狭めることはしたくないと考える方もいるかもしれません。
ところがいつか必ず訪れる事業継承のことを考えると、勇気を出し、可能な限り早いタイミングで家族や親族などの後継者候補に事業を引き継いでくれるのかどうかの意思確認をしておくことが勧められます。後継者候補が事業継承を快諾してくれれば、それで事業継承という将来訪れる課題をひとつ解決したことになるでしょうし、断られた場合には早めに次の一手を打つことができます。
もし残念ながら事業継承を辞退された場合には、そのときこそがM&Aを検討し動き出すタイミングのひとつだと言えます。
◇事業継承を考えるべきタイミングその2
体の不調を感じたとき
日々の診療にあたっていると、体の不調で休診しなければならない状況がくると考えることはあまりないかもしれません。ところが、突然の体の不調のために急いで後継者探しをしなければならなかったケースが意外にも多くあります。
たとえば、クリニックを経営している60代のA医師はそれまで身体の不調なく日々の診療に打ち込んでいましたが、ある日がんで余命半年と宣告されました。A医師の場合、わずか2カ月ほどで事業継承を成し遂げることができましたが、A医師は事業をつなげる相手を見つけて安心されたのか、その1カ月後にお亡くなりになられました。本当にぎりぎりのタイミングで事業継承できたという事例です。
A医師の場合は、なんとか間に合いましたが、なかには後継者選びが難航したり、条件面が折り合わずに間に合わないこともあります。するとクリニックを廃止せねばならず、遺された家族が廃業の手続きなどに追われて苦心するかもしれません。
また、たとえ事業が継承できたとしても、買い手が要求する条件を飲み込まざるを得ない状況に陥り、築き上げてきた資産を納得のいかない形で手放すことになるかもしれません。
元気なときに「もしも」のことは考えたくないものですが、将来家族や通院している患者さんが困ることがないようにするためにも、2つ目のタイミングは体調不良を感じた時です。
◇事業継承を考えるべきタイミングその3
ワークライフバランスの「プライベート」にそろそろ重きを置きたいと考えたとき
「患者さんでにぎわって流行っているのに、もう引退しちゃうの?」
そんな医師が周りにいませんか。実は「クリニックがにぎわっているうちに」というのが3つ目の事業継承を考えるべきタイミングです。
理由は2つあります。1つ目はクリニックの価値が適切に評価されやすいということです。2つ目は、まだ自分も元気なので臨床現場の第一線は退き、第2の人生を始められることです。
たとえば、医師夫婦で営んでいたクリニックを60代で手放したB先生たちは譲渡で得たお金で別荘を購入してプライベートを充実させ、かつ完全に引退するのではなく週に数日は診療にあたるという夫婦が思い描いていた第2の人生を歩んでいます。
地域で暮らす人たちのために、ときにはプライベートの時間を削って医療を提供し続けてきた先生が「余力があるうちに、自分の時間を充実させたい」と思ったら、そのときが事業継承を考えるタイミングと考えても良いかもしれません。
このように事業継承を考えるにはいくつかのタイミングがあります。ただ、いずれのタイミングで動き出すにせよ断言できるのは「早めに行動を始める」ことが大切です。
早く準備を始めれば、引継ぎに十分な時間を取ることが可能です。その結果、築き上げてきた事業を納得のいくかたちで後継者につないでいくことができます。もし日々の診療などで忙しく、事業継承のことにまで手が回らないという場合には専門家の力を借りるというのも良い選択肢のひとつになるでしょう。
(2021年2月時点 ※本記事は日本経営ウィル税理士法人より提供を受けています。)