第7回 M&Aに関するよくある質問
今回は、M&Aにより医療機関を譲り渡すことに関するよくある質問と答えについてご紹介します。
Q1.病院のM&Aにかかる期間はどのくらいですか?
A1.早くても1年、長いと3年以上の期間を要します。
まず始めはM&Aの専門家との個別面談です。個別面談を通して売り手の希望条件を整理します。それと同時に医療機関の事業規模、従業員数などの状況を把握するために必要な資料を集めて「法人概要書」の作成と、買い手を探索する際に相手に提示する「ノンネームシート」を作成します。ここまで2ヶ月~3ヶ月程度かかります。
次に買い手候補の探索が始まります。早い場合では探し始めて2~3ヶ月ほどで買い手が見つかります。一方で、長い場合には2年以上探し続ける場合もあります。その際にはおよそ半年から1年で条件面の見直しを行うなどして戦略を立て直します。M&Aで時間がかかる一番の理由は、買い手候補先が現れない場合です。
買い手候補が見つかった後は、アドバイザーを通じて双方で大凡の条件(承継時期、譲渡時期、従業員の処遇など)をすり合わせし、話を進めたいという意向があれば、両者での面談が行われます。
その後も、大凡の条件を盛り込んだ基本合意の締結、買い手による買収監査などを経て、最終条件のすり合わせを行います。その条件のすり合わせが無事終われば最終契約を締結し決済します。この売り手と買い手候補の面談から決済までに3ヶ月から1年かかります。
Q2.M&A後の従業員が心配です。雇用契約、退職金、給与はどうなりますか?
A2.医療法人で出資持分譲渡にて事業承継した場合は、例えていうならば会社の社長が交代したようなもので、従業員にとってはこれまでの雇用契約等はそのまま引き継がれます。なお、事業承継のタイミングで従業員の給与を下げるなどして、勤務している労働者にとっての不利益な変更を行うことは労働法違反になる可能性が非常に高くなります。もし給与を下げる場合には、従業員と新しい雇用主の間で同意をとったうえで進めていく必要があります。
一方、個人事業の医療機関の場合には雇用契約と給与については新たな雇用主と結び直すことになります。
退職金については譲渡時にいったん従業員に支払うのか、それとも引き継ぐのかを前もって買い手と話し合って整理しておきましょう。もしこうした対策を講じずにいると事業承継をきっかけに医療機関から従業員が離れてしまう原因になりかねません。
Q3.退職後も働くことは可能ですか?
A3.条件次第で退職後も勤務を続けることができます。事業承継をする際、医療機関は1~3ヶ月の引継期間を設けることが多いです。元の医療機関の医師を非常勤というかたちで雇用して、医療機関の安定した体制作りをしていくためです。
また退職後の勤務で気をつけなければならないのが、譲渡した医療機関の近隣の地域では勤務できないおそれがあるということです。元の医師の新しい勤務先へ患者さんが流出するのを防ぐためです。これは、他院で勤務医として勤務する場合も、新たに開業する場合にもあてはまります。
近隣の地域とはどのくらいの範囲を指し示すのかについての明確なルールはなく、その医療機関の診療科の診療圏によるのか、単純に距離で定めるのかなどは条件をすり合わせる中で決定していきます。
(2021年4月時点 ※本記事は日本経営ウィル税理士法人より提供を受けています。)